第13回 マルチメディア学習
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1. eラーニングについて
eラーニング(e-learning)
学校教育など制度的な学習のみを対象としているのではない
企業研修
非制度的な学習
活動理論に基づく学習の分類でいうところの
青木, 2012
eラーニング
「情報通信技術(ICT: Information and Communication Technologies)を介して、又は、活用して行う教育や学習」
様々な形態の教授学習過程が含まれる
対面授業
ブレンディッド・ラーニング
ハイブリッド・ラーニング
フルオンライン授業
授業においては様々な道具が利用される
一般的な道具
教科書、資料、ノート、筆記用具など
電子機器
AV機器、PC,電子黒板、タブレット端末
インターネット環境
学習管理システム(LMS: Learning Management System)
教授学習に関するさまざまなことを管理するシステム
最近ではWebを使うものが標準的
教育評価においてはデータが必要
学習活動に関する記録、作品やレポート、テストの結果など
LMSの利用
フルオンライン授業が可能に
対面授業を実施する際にも、ブレンドしたりハイブリッドしたりしている
eラーニングの分類
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基準
同期か非同期か
対面授業: 時間と場所の共有
自学自習か集団学習か
4つに分類
同期・自学自習
ライブストリーミングビデオ等での学習
非同期・自学自習
Web Based LearningやWeb Based Trainingといったようなあらかじめ提供されたオンライン上の教材での学習
同期・集合学習
オンラインセミナーのようにウェブ会議システムを活用して行う授業・研修
非同期・集合学習
バーチャルクラスを設けて行う授業・研修
放送大学、2015年度にオンライン授業を本格実施
その際に「知識伝授型か知識構築型か」という分類について議論された
知識構築型
協調学習を想定
学習者が、他の学習者や教授者との協調を通して、自ら知識やスキルを獲得あるいは深化させていくということを重視した授業
知識伝達型
従来の教授者が学習者に一方的に講義をする
教授者→学習者への伝達が主な目的
eラーニングの欠点と利点(青木, 2012)
利点
学習場所の柔軟性
学習時間の柔軟性
スケールメリット
初期投資は高い
受講生が多いほどスケールメリットがある
学習履歴
自分のペースで進められる学習
復習
ジャスト・イン・タイム・ラーニング
時間や場所に制限されない多数の学習者の同時アクセス
保守・管理・更新の容易さ
学習者中心主義の学習
欠点
学習者の自律性の要求
自ら動機づけを維持して学習を継続する必要がある
コスト
受講生が少ないと対面よりもコストがかさむ可能性がある
技術的要因
が授業の質に影響する
学習者のICTリテラシー
2. マルチメディア学習について
教材
言葉(word)および絵(picture)として表現され、視覚的(visual)および聴覚的(auditory)に提示される
触覚(tactile), 味覚(taste), 嗅覚(olfactry)によって提示される教材もあるが特殊なもの
e-ラーニング以前からさまざまなメディアを使用して言葉と絵による教材が用いられてきた
仮想現実感やコンピュータ・ブレイン・インタラクションなどの現代のICTによって、人間の五感に直接働きかけるデバイスやコンテンツの研究開発も盛ん
言葉と絵以外のさまざまなメディアを使用した教材が使われるようになるだろう
マルチメディア学習(multimedia learning; Mayer, 2009)
基本的な仮説は「言葉と絵を合わせて学習した方が、単に言葉だけで学習するよりも効果的である」
Mayer(2009)によるとマルチメディアという用語は以下の3つの意味を持つ
1. 配信メディア
マルチメディア情報を配信するための物理的な装置
e.g. スクリーン、プロジェクター
2. 表示モード
マルチメディア情報を表示するためのモード
e.g. 文書かナレーションか、静止画か動画か
3. 感覚モダリティ
マルチメディア情報を人間が処理する際にどの感覚モダリティを使うか
e.g. 音声は聴覚的に、スライドは視覚的に処理される
Mayer自身の考え
(1)の見方は技術至上主義なので採用しない
(2)と(3)を採用する
(3)は学習者重視
マルチメディア学習は人間の情報処理モデルが想定されている
方法論的には行動主義に基づいている
学習の結果を学習者の行動(テスト結果)の変化から推測している
Mayer(2009)は学習を個人的なもの、学習者の認知システムにおこるものとみなす
学習されることは5つ
1. 事実(facts)
事物の特徴についての知識
e.g. サクラメントはカリフォルニアの州都である
2. 概念(concepts)
範疇、原理、モデルについての知識
e.g. 犬とは何かの知識
3. 手続き(procedures)
ステップ毎のプロセスについての知識
e.g. データをスプレッドシートに入力する方法
4. 方略(strategies)
目標を達成するための知識を調整するための方法についての知識
e.g. どのようにして問題を下位問題に分けるかについての知識
5. 信念(beliefs)
自分自身についての知識
e.g. 「私は数学が苦手」という信念
マルチメディア学習の情報処理モデルを構築する3つの前提
1. 二重チャネル
人間は視覚情報と聴覚情報を処理するために、別々のチャネルを持っている
2. 容量の制限
人間が一度に1つのチャネルで処理できる情報量には制限がある
3. 能動的な処理
人間は、関連する入力情報に注意し、選択された情報を一貫した心的表象に体制化し、心的表象を他の知識に統合することによって、能動的な学習を行う
その後の研究も含めてエビデンスに基づいた評価をしてMayer(2009)のモデルを修正(Mayer, 2014)
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情報処理の5つのステップ
1. 言語的作業記憶における処理のために、関連する言葉を選択する
2. 視覚的作業記憶における処理のために、関連するイメージ(絵)を選択する
3. 選択された言葉を、言語的メンタルモデルに体制化する
4. 選択されたイメージ(絵)を、視覚的メンタルモデルに体制化する
5. 言語的表象と視覚的表象を統合する
マルチメディア学習の原理(Mayer, 2014; Mayer2009の原理の追加修正)
無関係処理を少なくするための原理5つ
1. 一貫性(coherence): 余計な材料を削除せよ
人間は、無関係な材料が含まれるときよりも無関係な材料がないときの方が効果的に学習する
この原理には3つのバージョンがある
興味深いが不適合な言葉と絵とが除かれると、学習は改善される
興味深いが不適合な音と音楽とが除かれると、学習は改善される
必要のない言葉と記号とが除かれると、学習は改善される
2. 標識化(signaling): 重要な材料をハイライトせよ
人間は、本質的な材料の体制化をハイライトする手がかりが加えられたときに、効率的に学習する
標識化には、言葉によるものと視覚的なものとがある
言葉による標識化(メイヤーの研究対象)
概略: 最初にアウトラインを示す
見出し: アウトラインへの手がかりとなる
強調: キーワードを強調する
数詞: たとえば、第1に、第2に
視覚的な標識化
矢印
色分け
フラッシュ
指差しの身振り: スクリーン上のエージェントが指差す
グレーアウト(graying out): グレーになって選択できないようにする
1パラグラフ1ハイライトが良い
標識化しすぎると注意を導くよりも混乱を招くだけに終わるの
3. 冗長(redudancy): 話されたテキストに、書かれたテキストを加えるな
人間は、図+ナレーション+印刷された言葉からよりも、図+ナレーションからの方が、効率的に学習する
つまり、冗長なキャプションが含まれると、余計な情報処理が必要になってしまう
4. 空間的近接(spatial conitiguity): 書かれたテキストは、それと対応するグラフィックの近くに配置せよ
人間(学生)は、ページやスクリーン上において、対応する言葉と絵とが遠くよりも近くに提示されたほうが、効率的に学習する
5. 時間的近接(temporal contiguity): ナレーションとそれと対応するグラフィックとは同時に表示せよ
人間(学生)は、対応する言葉と絵とが、連続して提示されるより、同時に提示される方が効率的に学習する
必須の処理を管理するための原理3つ
6. 分節化(segmenting): プレゼンテーションを部分に分けよ
人間は、マルチメディアの内容が、1つの連続したユニットとして提示されるよりも、理解可能なセグメントに分けて提示された(user-paced segments)方が、効率的に学習する
7. 先行訓練(pre-training): 鍵となる要素の名前や特徴は、前もって説明しておけ
人間は、主要な概念の名前と特徴を知っていると、マルチメディアの内容から、より深く学習する
8. モダリティ(modality): 書かれたテキストよりも、話されたテキストを使え
人間は、絵と印刷された言葉よりも、絵と話された言葉から、より効率的に学習する
生成的な処理を促進するための原理7つ
9. マルチメディア(multimedia): 言葉だけよりも、言葉と絵とを使え
人間は、言葉だけからよりも、言葉と絵とから、効率的に学習する
10. 人格化(personalization): 言葉は、会話のスタイルで示せ
人間は、言葉が形式的なスタイルでよりも、会話のスタイルで、マルチメディアの提示がなされた方が効率的に学習する
11. 声(voice): 話し言葉は、人間の声を使え
12. 体現(embodiment): オンスクリーンのキャラクターには人間のようなジェスチャーをさせよ
Mayer, 2009ではイメージと呼ばれていた
意味内容自体はほとんど同じ
動画などで人物あるいはキャラクターを示すことは大切で、キャラクターの場合にはできるだけ人間の自然なジェスチャーをさせたほうが良い
13. ガイドされた発見(guided discovery): ヒントやフィードバックを与え、学習者が問題解決できるようにせよ
学習者が自ら問題解決をして正解を発見する、あるいは目的を達成したり、満足な解決に至ることができうるように、上手にヒントやフィードバックを与えよ
14. 自己説明(self-explanation): 学習者自身に授業を説明することを求めよ
受動的にコンテンツを理解するだけにとどまらず、他人に対して説明する
15. 図化(drawing): 学習者に授業を図化することを求めよ
図化、図式化、見える化することを求めたりすること
マルチメディア学習の原理は、3つの認知的処理の負荷によって分類されている
1. 無関係(extraneous)
教授の目標に資さない処理
教授デザインを混乱させることによって引き起こされる
2. 必須の(essential)
作業記憶内本質的な材料を表現するために必要とされる処理
材料が複雑なために引き起こされる
選択のステップで起こる
3. 生成的(generative)
より深い理解のために必要とされる処理
学習者の動機づけによって引き起こされる
体制化と統合とのステップで起こる
Mayer(2009)とMayer(2014)の差分
無関係の5つと必須の3つの8つの原理は同じ
原理13以降は新しく追加されたもの
先行知識から、選択・体制化・統合の認知的処理のそれぞれに、動機づけとメタ認知とが働くというように組み入れた
3. マルチメディア学習をめぐって
人間の行動や学習とはマルチメディア学習として捉えることが適切だろう
従来からの授業という場面に限らず、教授学習の場面、そしてそもそも日常生活では、さまざまな道具が使われている
マルチメディアが利用された、学習あるいは活動の場面だった
従来人間や生物を取り巻く環境は、物理的に多様な性質を持っており、さらに人間は言語や道具を持つことで、この多様な性質に拍車がかかった状態だった
特に、
言語行動(ルール支配行動)
知覚運動学習
観察学習
→第14回 動機づけと自己制御